2022.11.17
Dr. T『 同じ失敗はしないので. . .』
80歳の男性。17時頃、胸にザワザワする感じがして、その後嘔吐した。
夕食は普通に食べることができた。20時25分に今度は明らかな胸痛があり、再度嘔吐した。
心拍監視モニターでは一過性にST低下を示した。20時40分に心電図、血液検査、21時30分に心エコー検査を行なった。結果を以下に示す。
心電図自動解析:左脚前肢ブロックの疑い、RSR’パターン、陰性T波:aVF
血液検査:白血球 62.5 x 102/μl, 好中球62.0%, FDP 2.5未満μg/ml, D-ダイマー0.4μg/ml, Glu 129mg/dl↑, Lac 20 mg/dl↑, AST 35 IU/L↑, ALT 84IU/L↑, ALP 118U/L↑, LD 191U/L, γGT 41 IU/L↑, CK 83 IU/L, 高感度トロポニンI 25.3pg/ml, BNP 6.9 pg/ml
心エコー検査:#左室:LVDd/Ds: 41.0/23.7mm, EF: 73.6%(M-mode) #明らかな壁運動異常所見なし 収縮良好 #右心負荷所見なし 三尖弁逆流;軽度TrPG:27.6mmHg, 肺高血圧所見(-), 下大静脈拡大(-)呼吸変動有り, 右心系拡大(-) #心房中隔瘤(+)
胸痛に加えて、心拍監視モニターでの一過性のST低下、さらに第III誘導ではT波逆転がみられたものの、採血結果や心超音波検査では心筋梗塞を疑わせる所見は全くありませんでした。
私は、当初は心筋梗塞を疑ったが、肝胆道系疾患かもしれないと、次の医師に申し送りをしてしまいました。
振り返って、このような時、どうすべきだったでしょうか。皆さんならどうしますか?
その後の顛末
後で循環器内科医からは、この心電図だけでもIとaVLでSTが上昇していること、II,III, aVF, ではSTの低下していること、の2点から側壁の心筋梗塞と判断できるとのことでした。
確かに、入院時と、発症時、発症2日後(この時には前壁中隔も加わる)のECGを比較すると、一目瞭然でした。(下図参照)
初めの心電図で心筋梗塞と診断できた人は、循環器内科の専門医並みの心電図の解析力を持っているようです。すばらしい。
さて、私と同じく自動解析に頼った人はどうすべきだったのでしょうか?
European Society of Cardiology(ESC)は、以前は3時間後、現在は1時間後に高感度トロポニンの再検査を勧める0h/1hアルゴリズムを示しています。
今回得られた教訓です。教科書には書いてあるのですが、自分のものになっていませんでした。
心筋梗塞が疑われるなら、再度、心電図や血液検査を検査する。
参考文献
石井潤一 Point of care:現場で役立つ検査,超音波等 1)臨床検査:point of care testing, 心筋マーカー(心筋トロポニンを中心に) 日本内科学雑誌 108 : 2487-2474, 2019
松澤泰志、木村一雄 胸痛:ST上昇型急性心筋梗塞 呼吸と循環 64:215-221, 2016
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