2022.12.06
清水塾vol.9 転倒後左腕を動かさなくなった赤ちゃん
1歳4ヶ月の男児。
ソファーに登るのに失敗して、床で尻餅を突き、そのままひっくり返って、後頭部を打撲した。以後左上肢を動かさなくなってしまった。
身体所見:意識は清明。診察時に右手で母親に抱きつこうとするが、左腕は動かさない。上半身を裸にして観察したが、左肩から左手先まで明らかな腫脹や発赤は認めない。左手の指は動く。
左肘関節や左肩関節は受動的には動かすことができる。左下肢の動きにも問題はない。念のために、左上肢の単純エックス線写真を撮影した。
検査所見:
単純X線検査の両側肘関節2方向
これで皆さんは骨折の診断ができますか。
塾長に相談したところ、これで骨折が疑われるとのことで、左腕のCTを撮ることにしました。
左上腕骨の単純CT検査
CTだと骨折線が明瞭にわかります。
上腕骨顆上骨折についてまとめました。
●上腕骨顆上骨折は小児の肘*の骨折の中で最も多い。
●単純写真で骨折線が不明瞭でも、上腕骨遠位端に、前方fat padと後方fad padが観察されると骨折が示唆される。この例でもよくみるとそれらは観察できる。
●骨端線を比較するため患側だけでなく健側のレ線検査も撮影する。
●治療:ずれが小さければ、ギプスや半ギプスを3~4週間装着する。
●「Fall On an OutStretched Hand(FOOSH;フーシュ)」:手のひらを下にして肘を伸ばした状態で転倒すること。このような転倒では各年代別に特徴的な骨折を起こすため、「FOOSH」であったかどうか詳しく病歴を聴取することが重要である。
・幼少期~学童期の場合は「上腕骨顆上骨折」
・青年期の場合は「舟状骨骨折」
・高齢者の場合は 「橈骨遠位端骨折(Colles 骨折)」である。
上図の赤色で囲んだ部分が前方fat padと後方fat padです。これらが観察されると骨折している可能性が高いと考えます。
今回勉強したこと
- 赤ちゃんは話ができない。腕を動かさないことは診断にとても重要な所見となる。
- 単純X線写真で判定できない時はためらわずにCTで確認することが重要である。
参考文献
- https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/22-外傷と中毒/骨折-脱臼-および捻挫/上腕骨遠位部骨折
- 画像読影道場 「FOOSH!手をついて転んだ!」の巻 仲田和正 総合診療 27巻 No. 5, 637-641, 2017
- 症例問題36 4歳男児 [主訴]左手を痛がって動かさない Medicina Vol.52 No.5 713-714, 2015
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