2022.08.23
清水塾 vol.3
主訴:元気がない、るい痩
現病歴:69歳の男性。妻と2人暮らし。以前から膝痛や腰痛があり、自宅に引きこもりがちだったが、1ヶ月くらい前から食欲が低下して、身体機能も低下してきた。
一昨日より床から起き上がれなくなくなったため、救急車で来院した。
この数日の食事量は普段の1/10程度で、飲水量もわずかだった。室温が34℃の日でもクーラーは使っていなかった。
生活歴:喫煙1日20本で50年間だが、ここ数年は禁煙している。飲酒:焼酎3.6L瓶を3日間で飲む。職業:62歳まで林業に従事していた。
バイタルサイン:身長180cm、体重不明、体温37.1℃、脈拍99回/分、血圧163/120mmHg、呼吸回数17回、SpO2 94%
全身状態:るい痩、口腔内乾燥、右腸骨部に褥瘡
このような患者を診た時、まずどうしますか?
当院の研修医はこの時点で、熱中症や脱水症を考え、まず、血液尿検査をオーダーしました。
その以下に結果をしまします。
血液検査:白血球123.2×102/μL、好中球分画87.2%、ヘモグロビン12.6g/dL、ヘマトクリット36.4%、Glu 190mg/dL、Lac 18mg/dL、AST 40IU/L、ALP118U/L、γGT 102IU/L、CHE 131IU/L、CK59IU/L、アミラーゼ209IU/L、尿素窒素75.7mg/dL、クレアチニン2.63mg/dL、アルブミン3.0g/dL、尿酸 15.8mg/dL、ナトリウム 135mEq/L、補正カルシウム10.7mg/dL、CRP 20.94mg/dL、BNP 117.0pg/mL、血清浸透圧 313mOsm、
尿検査は自尿なく、この時点では未実施。
血液検査は異常値のみ掲載しました。赤字は正常値以上、青字は正常域以下を示します。
みなさんはこの検査データで患者の状態を大体想像できますか。
こちらでは、上記の結果から、脱水症の他に感染症があるとみて、感染源の検索のために、さらに胸腹部CTを撮影しました。
しかし、結果は軽度の肺気腫を認めるのみで、検査結果を説明できる病変は認めませんでした。
さて、ちょっと困りました。
次の検査や治療はどのようにしますか。
どのような疾患を鑑別にあげますか?
この症例ように主要なカロリー源がアルコールで、その他の栄養素を十分に摂取していない可能性がある患者の診察で、忘れてならないことが1つあります。
それは、何かというのが今回の勉強の主題です。考えてみてください。
それは、ビタミンB1(チアミン)です。
ビタミンB1はブドウ糖からATPを作る際に必須です。
ビタミンB1の必要量は1日1〜2mgで、ビタミンBlは摂取しなければ1〜2週間で枯渇し,外眼筋麻痺・運動失調・意識障害を呈するWernicke脳症や下肢の多発神経炎、浮腫、心不全を呈する脚気などを引き起こします。
アルコール多飲者や高齢の1人暮らしなどでは、入院前の患者の状態も可能な限り把握するように努め、ビタミンBl欠乏の可能性を常に考慮しておくことが大切です。
ウェルニッケ脳症と聞けば、条件反射でコルサコフ症候群やチアミンを想起されるとは思いますが、実際の臨床現場で典型的なウェルニッケ脳症の患者に遭遇することは極めて少ない反面、初診ではビタミンBl欠乏症の80%は診断できません。(Sechi G, et al.: Lancet Neurol. 2007;6(5):442-455)
総合診療や救急外来では、意識障害のみならず、上記症例のような患者を診察する場合にも、一応、ビタミンB1欠乏症を頭に入れておきましょう。
その診断にはその血中濃度を測定する必要がありますが、ほとんどの病院では外注検査となるために、見切り発車でビタミンB1を投与することになります。
実際の投与方法
チアミン塩化物塩酸塩には1バイアルは50mg と5mgの2種類があります。
ウエルニッケ脳症が疑われる場合には500mgを30分かけて1日3回2日間、その後5日間は250mg/日を投与するのが定石です(Cook CC, et al.: Alcohol Alcohol. 1998;33(4):317-336)。
しかし、実際の問題として、多くの病院の処方システムでは、この量を処方すると、処方量が多すぎると警告が出てきます。
そこで、ビタミンBl欠乏症が疑われる場合には、とりあえず、初診医師としての判断で、まずは100mgを静注して、その後に経験豊富な上級医の先生と相談してはいかがでしょうか。
NEW POST
CATEGORY