2022.10.04
清水塾 vol.5 “便秘と下痢を繰り返す症例”
以下の症例の鑑別診断を考えてください。
84歳の女性。腰痛、腰部脊椎管狭窄症、高血圧症で通院中。自宅で転倒した。腰痛が増悪して、体動が困難となり、救急車で入院した。
入院後、排便なく、5日目に初めて排便したが、この際は1日に7回の水様便だった。
その後8日間1日3回以上の水様便が続いた。その後も数日毎に水様便が続き、便秘と下痢を繰り返している。
入院1週間後に行った血液検査の主な検査結果を以下に示す。
白血球49.6×102/μL, ヘモグロビン12.0g/dL, 総ビリルビン0.46mg/dL, 総蛋白6.2g/dL, アルブミン3.0g/dL, 尿素窒素16.7mg/dL, Na140mEq/L, K3.3mEq/L, Cl110mEq/L, CRP2.86mg/dL, 随時血糖97mg/dL
腹部単純CT検査:上行結腸に壁肥厚が見られる。
大腸内視鏡検査:憩室症があるも、出血している場所はなく、下行結腸からS状結腸にかけて線状の瘢痕の所見あり。
便培養検査:腸管出血性大腸菌(-)
内服薬:トラマール塩酸塩OD錠25mg4錠分4、オパルモン錠5μg3錠分3、メチコバール500μg0.5mg3錠分3、タリージェ錠5mg 3錠分2(朝:1、夕2)、アムロジピンOD錠5mg1錠分1、ネキシウムカプセル20mg1cap分1眠前、ドンペリドン錠10mg1錠分1眠前
慢性下痢の診断として、虚血性腸炎の他に、忘れてはならない疾患に薬剤起因性collagenous colitis(CC)がある。
病因は不明だが、NSAID,アスピリン, チクロピジン, ランソプラゾール, アカルボース, ラニチジン, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬剤との関係が指摘されている。
中でも、NSAIDとPPIが重視されている。
本症例でもPPIのネキシウムカプセルが使用されている。
主な症状は再発性、間欠的な慢性下痢で、緩徐に発症することが多い。
CCの診断には大腸内視鏡検査が必須で、所見がないのが特徴だが、粘膜裂創と顆粒状粘膜は本性を疑う上で重要な所見となる。病理的には大腸の上皮基底膜直下に膠原繊維束が認められる。日本のCCはほとんど薬剤性と考えられ、治療は関連薬剤の中止で症状が改善する。
まとめると
- CCは血便を伴わない水様性の下痢を特徴とする。
- PPIは大腸上皮細胞のプロトンポンプも阻害してしまうためCCが発症する。
- PPIによる下痢の副作用はCCの可能性がある。
- CCはランソプラゾール(タケプロン®)で最も多いが,ラベプラゾール(パリエット®)などの他のPPIでも報告されている。
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